目次
1. 企業内の社員のキャリア自律支援や自立型人材支援が増えている理由
2. キャリア自律に効果のあったコーチング事例
3. キャリア自律の実現のために本当に必要なこととは?
1. 企業内の社員のキャリア自律支援や自立型人材支援が増えている理由
me:Riseでは、社員のキャリア自律支援や自律型人材支援を目的としてコーチングを導入いただく企業様があります。
一般的に「キャリア自律」とは、企業ではなく個人が自分のキャリアを主体的に構築し、そのための継続的なスキルアップに積極的に取り組むことを指すことが多いようです。
キャリア自律が求められている背景として、大きく3つ挙げられます。
(1)終身雇用や年功序列の崩壊による、成果主義を導入する企業の増加
(2)人生100年時代による就労の長期化に備えたリスキリングの重要性の高まり
(3)キャリアを会社に委ねるメンバーシップ型雇用の衰退と職務に適したスキルを持った人材を雇用するジョブ型雇用の普及
企業を取り巻く環境と時代の変化の中で企業が生き抜くために、「指示待ち型」の社員ではなく、状況変化に臨機応変に対応できる、自らが考え、判断し、行動できる「自立型」人材が必要となってきています。
そして、企業は働き方の多様化や個人の労働観の変化にあわせて、人材開発プログラムの導入や柔軟な制度の運用が求められています。
(社)日本経済団体連合会は、2006年に発表した「主体的なキャリア形成の必要性と支援のあり方~組織と個人の視点のマッチング~」の中で、「企業においては、自らの規範や価値観に基づいて物事を考え判断し、行動できる「自律型人材」をいかに育成するかが大きな課題となっている。」と指摘し、現在まで経営論の視点でさまざまなキャリア形成に関する提言を発表しています。
・「主体的なキャリア形成の必要性と支援のあり方~組織と個人の視点のマッチング~」(2006年)
・「副業・兼業の促進 働き方改革フェーズⅡとエンゲージメント向上を目指して」(2021年)
また、経済産業省もキャリア自律に関する様々な研究を行っており、その研究成果を各種報告書にまとめています。
・「「人生100年時代」の企業の在り方~従業員のキャリア自律の促進~」(平成29年12月)
・「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート ~」(令和2年9月)
・「未来人材ビジョン」(令和4年5月)
企業が従業員のキャリア自律を支援するメリットとして、主体的に考え、行動し、スキルアップを継続できる社員が増えることで、組織が活性化し、生産性が向上させることが可能となります。また、採用面においても、主体的にキャリアを形成できる環境を整備している企業は、優秀な人材の採用・定着が期待できます。
キャリア自律の支援を目的とした企業の取り組みとして、リモートワーク、副業の解禁、ジョブ型雇用や社内公募制度の採用、人事評価制度の見直し、フレックスタイム制や裁量労働制の導入、スキルアップのサポート制度や社内研修・e-learningの充実などがあげられます。
2. キャリア自律に効果のあったコーチング事例
私がセッションを担当した方のケースをご紹介し、何故、コーチングがキャリア自律支援に役立つのか、そしてどんな効果が期待できるのかをお話ししたいと思います。(※守秘義務の観点から、お名前や内容は変更している部分があります。)
とある大手メーカーの中堅リーダー層向けを対象としたプログラムで参加された30代の本田さん(仮名)。
新卒で入社した会社で勤続15年目の女性です。
数年毎に部署異動があり、現在は3つ目の部署。品質管理や事業部での企画職を経て、総務部に異動してきたばかり。
さまざまな経験はしている一方で、今後も長く働き続けていくことを考えると、専門性を深められていないことを不安に思われていました。加えてこの先、どんな専門性を身に付ければよいのか?やりたいことも見つからず、今後のキャリアが全く描けないので、困っているとのこと。
全3回のセッションで、キャリアの方向性と道筋を描き、それに向けて行動を起こせるようになりたいということでセッションをスタートしました。
初回のセッションの中で、入社から現在までを細かく振り返っていくと、本田さんは最初の品質管理部の時に各部署の人と連携しながら新製品の発売という同じ目標に向かって進めたことや、設計開発部などから関連法規対策の相談を受けた経験が楽しくやりがいのある仕事だったことを思い出されました。
同時に「専門性を高めたい」と思う根底には、「課題解決して人の役に立ちたい」という気持ちが大きく影響していたことに気づきました。
本田さんにとって、総務部への異動は希望したものではなかったようですが、話していく中で、総務部でも以下のようなご自身のやりがいに繋がる仕事の機会があることに気付かれ、肯定的に捉えられるようになったご様子でした。
・他部署との関りが多く、協力をお願いするなど連携が必要な業務が多いこと
・職場環境改善や働き方に関わる新しいツールや設備などの導入業務もあり、社内の課題解決に繋がる仕事ができること
セッションをしたことで、やりたいことが少し見え、もっと「好きなこと」「やりたいこと」を探したくなった本田さん。セッション終了後にご自身でそれらのリストアップを試みたり、様々な職種を検討してみたりされたりと日常的にキャリアについて考えるようになったそう。
その一連のプロセスの中で、自分にとって働く上で大事にしたい事はやはり「周りの人のお困りごとを解決すること」と「異なる立場の人と連携すること」だと確認できたと次のセッションでお話してくださいました。
さらにセッションでイメージが膨らみます。
「例えば、こんなことができたら…、さらにその先は…」と表情豊かにお話される様子は、初回のセッションで不安げな様子からは想像できないほどの変化でした。そして、「今はどんな職種や部署がよいか特定できない」こと、「 “周りの人のお困りごとを解決する仕事”をしていく中で、フォーカスしていきたい領域が出てきたときに専門性を深めたい」という思考がご自身の中で整理されてきました。
2回目のセッション後には、自分のやっていきたい仕事について上司や同僚に伝え、積極的に関わっていこうと行動されるようになりました。
自分自身で納得のいくキャリアの方向性が見え、上司にも明確に伝えることができたことで、当初目標にしていたキャリアの方向性と道筋は見えたと感じられた本田さん。
3回目のセッションでは、そのキャリアを実現していくために担当業務の中でのMUSTとWANTや優先順位を整理し、仕事の仕方について検討して終了しました。
ご自身のやりがいに繋がるキャリアの軸が明確になり、ご自身の中での納得度/確信の度合いが高まったことにより、主体的で前向きな行動意欲が生まれた一例です。
3. キャリア自律の実現のために本当に必要なこととは?
高橋 俊介氏の著書「キャリア論―個人のキャリア自律のために会社は何をすべきなのか」の中で、個人にとってキャリア自律に必要な3つのポイントが紹介されています。
(1)仕事に真剣に取り組むなかで、自分自身の適性や可能性を発見する
(2)仕事や人生についての価値観、つまり自分が大事にしているものを発見し、自覚する
(3)世の中の変化を常に予測しながら、自分の価値観を実現できる仕事や人生のために、常に準備を行い続ける
ご紹介した事例では、立ち止まってキャリアに向き合う時間を取ることで、上記の①②が手に入り、まさに自律的なキャリアの第一歩を踏み出したのではないかと思います。
そして、キャリア自律には、①定期的に考える時間の確保、②コーチとの対話、問いかけによる思考しやすさ、③行動促進、の3つの観点から、社員一人ひとりが自分のキャリアに意思と責任を持ち、主体的に学び・考え・行動しながらキャリアを創っていくことが有効だと、今回ご紹介した私のコーチとしての実体験からも再認識しました。
【本記事の執筆者】
小泉 暁子 (紹介インタビュー≫)
ソニー(株)に21年間勤務。商品開発や事業企画に携わった後、人事部で人材育成、女性活躍支援などに従事。その後、組織開発系ベンチャー企業において契約企業の社員の外部メンターとして活動。
現在はキャリアコーチ、キャリアコンサルタントとして活動。企業研修や個人向けワークショップなども行っている。
ビジネスマンのサポート経験が豊富。また、子育てと仕事の両立経験からのアドバイスができることも強み。
国家資格キャリアコンサルタント、Points of You®認定トレーナー(旧資格)、チームフロープロコーチ養成スクール卒業