me:Riseキャリアコーチ
小平 ゆう子
目次
1.ビジネスパーソンに必要なメタ認知とは何か?
2.コーチングでメタ認知が促される理由
3.コーチング事例
4.まとめ
1. ビジネスパーソンに必要なメタ認知とは何か?
変化が激しく、未来が予想しにくく、つまりは前例がないため正解が存在しない、「VUCA」※)と呼ばれる時代となりました。今のビジネスパーソンは従来の価値観が大きく変化している環境にてパフォーマンスを出すことを期待されています。そのような背景から、企業における人材開発の手法も異なってきており、一定のノウハウを提供するようなスタイルから、個々に自ら考えてもらうようなスタイルに変わってきています。
※)Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をとった呼称
このような時代を生きる上で、重要なワードとして上がってきているのが「メタ認知」です。
メタ認知とは、1970年代に米心理学者ジョン・H・フラベル氏が提唱した概念で、もとは認知心理学で使われていた用語です。
認知心理学を専門としている三宮真智子氏は著書『メタ認知 あなたの頭はもっとよくなる』¹で、メタ認知とは、「自分自身や他者の認知について考えたり理解したりすること、認知をもう一段上からとらえること」と定義し、さらにイメージがしやすいように「自分の頭の中にいて、冷静で客観的な判断をしてくれる「もうひとりの自分」」と書いています。
メタ認知の高い人は、自分について客観的な分析ができることから、自分の思考の特徴や傾向を知り、冷静な判断と行動ができます。また、多面的な考察によって物事の本質をとらえることができるため、他者の意見を受容できることも特徴と言われています。
メタ認知を高めることによって、仕事や人間関係においても「他者の考え方は自分とまるで違う」と客観的にとらえることができます。その結果、より良いコミュニケーションにつながり、冷静な判断ができることでスムーズに仕事を進めることができるでしょう。
実際に、ヤフー株式会社では自分のことをより客観的に知ることがリーダーシップには必要だとし、2016年6月から独自のメタ認知プログラムをスタートさせています²。
メタ認知を上げるには、いくつかの方法がありますが、一つの方法として「瞑想」がよく知られています。先述のヤフー株式会社では、マインドフルネス瞑想を取り入れています。
他には、書く瞑想とも言われているジャーナリング(ライティングセラピーとも言う)で、今、自分の頭にあることを全て目の前の紙に一定の時間ずっと書き続け、それを見返すことで、今の自分を客観的に捉えるという方法です。
また、コーチングもメタ認知をあげる上で有効な手段であるということをご存知でしょうか?
2. コーチングでメタ認知が促される理由
(1) コーチングの時間が心理的安全な場である
まずコーチングは、クライアントと守秘義務のあるコーチの2人の間で行います。クライアントの持ち込んだテーマに対して、訓練されたコーチが話を傾聴します。
コーチは、そのテーマの背景やクライアントが何に困っているのかに興味を持ち、もっと理解したいと思って質問をします。
クライアントは、コーチと利害関係がないため、批判されるリスクを感じることなく、心理的安全性が担保されている場であるからこそ、自分に起きていることに真っすぐに向き合うことができ、気づき、つまりメタ認知が生まれます。
(2) コーチングのアプローチ自体がメタ認知を引き出す
<目的を確認する質問>
コーチは傾聴を大切にし、さらにその上でクライアントの話を正確に理解するために様々な質問をします。普段の会話ではまるで相手を責めているかのように聞こえそうであまり使われないかもしれませんが、コーチは目的を確認するために「どうしてですか?」「何のためですか?」とよく質問します。(もちろん言い方は工夫しています。)
細谷 功著 『メタ思考トレーニング 発想力が飛躍的にアップする34問』³にも、Why思考をすることによって「一度「上に上がって」上位目的を考えることで別の手段が出てくる」と述べているように、クライアントは「どうしてですか?」と聞かれると、最初は戸惑いながら表層的に答えたりすることもありますが、そこでもう一度「どうしてですか?」と繰り返すと、本当の目的にたどり着きます。そうすることで、今まで手詰まりだった状態から新たな手段が生まれてきます。
<俯瞰を促す質問>
セッション中、コーチは時にセッションを一旦停止させ、「ここまで話してみてどうですか?」「実際に話してみて、気づいたことはありますか?」とクライアントに尋ねます。この質問も、通常の会話ではほとんど見られないかと思います。自分の発言に対し、その場で振り返って「本当にそうだ」とか「なんとなく上っ面なことを言ってしまったな」などと俯瞰してもらいます。コーチング中はそのような位置にクライアントに立ってもらうことで、クライアントのメタ認知が促進されます。
<視点を変えるアプローチ>
問題にはまりこんでしまっている場合、自分自身で視点を変えるという発想はしづらいですし、もし発想したとしても変えることは簡単ではありません。コーチングでは、その点に切り込んでいきます。
通常は、直面している問題(現在)、そしてその背景(過去)に目が行きがちですが、コーチングでは未来に視点を当てていきます。「本当はどうしたい?どうなったらいい?」といった質問で、クライアントには解決された後の状態を描いてもらいます。そこから行動につながるヒントを得ることができます。
また、セッションの中ではクライアント自身だけではなく他者の視点に触れたりもします。特に、セッションテーマがクライアント以外の人も関わってくる場合(例えば部下、上司、プロジェクトメンバーなど)、ポジションチェンジという手法を使います。
まず自分の感じている事を十分に吐露していただき、その後で、その相手の立場にも立ってもらいます。今までは自分が良いと思っていたアプローチが、果たして相手の立場になってみるとどうなのか?他にどんなアプローチだともっと相手に響くのだろう?と、相手の視点になることで、新たなアイデアを得ることがあります。
3. コーチング事例
実際のコーチングの場面で、クライアントのメタ認知が促され、行動につながった事例をご紹介します。
ある電機メーカー勤務の中間管理職の加藤さん(40代)は、会社のお達しで1on1を導入するように言われていながらも、手が付けられていないことから、これをテーマに話したいとセッションがスタートしました。
お話をうかがうと、加藤さんは、そもそもの管理職としての業務量や突発事項への対応もかなり多く、日々のタスクを打ち返すことで多忙のご様子でした。加藤さんは「本当はやらなきゃいけないんだけど、時間が本当になくって…」と話をされていました。
そこで「では時間があれば、やれそうですか?」と質問すると、「そりゃあ、やれると思う…」とおっしゃったあとに「…けど…」と少し心細そうに続けられたので、その先を促すと「…何のためにやるのか、自分自身が腹落ちしていないんだよね」と続けました。ここで初めて、なぜ1on1に手をつけられていないのか、加藤さんは気付きました。
もし「時間がない」のを出来ない原因と捉えた場合、解決方法は時間の捻出方法をさぐることになります。ただ、この場合の本質的な問題は時間のあるなしではなく、1on1を現場で主導するご本人が導入の意味を見いだせていないことにあります。それがわかれば、手の打ちようがわかってきます。
例えば、自分が理解できるまで上層部に導入の背景を訪ねてみる、部内のスタッフの困りごとや悩みごとをヒアリングするという行動もありかもしれません。
結果的に、加藤さんは自分の真のボトルネックをメタ認知したことで、そもそも自分自身がどんな組織を作りたいかをまず考え、その上で1on1をどう使っていったらいいかを考えたいと話されたので、次の一手が明確になりました。
4. まとめ
自分の状況を冷静に、客観的に理解できておらずにドツボにはまってしまっている場合、コーチングによってメタの位置に立つことができ、結果として気づきを得ることができます。
さらに、その気づきからどんな行動をとっていくと良いのかについてコーチと話すことで、気づきで終わらせず、次の一歩へと確実につないでいくことが可能となります。
出典
1 【インタビュー】ヤフーがメタ認知トレーニングでマインドフルネスを実践している理由(ヤフー株式会社 中村悟氏)
2 三宮真智子. メタ認知 あなたの頭はもっとよくなる 中公新書ラクレ p.19
3 細谷 功. メタ思考トレーニング 発想力が飛躍的にアップする34問 PHPビジネス新書 (p.35). 株式会社PHP研究所. Kindle 版
参考記事
1 メタ認知とは?メタ認知能力の高い人・低い人の特徴、高める方法を紹介
2 メタ認知とは?【意味をわかりやすく】能力のトレーニング方法
3 【コーチ監修】メタ認知とは?重要性やトレーニング方法、メタ認知を促すコーチングのアプローチをご紹介
【本記事の執筆者】
小平 ゆう子(紹介インタビュー≫)
転職エージェント・JACリクルートメントにて、法人営業とキャリアコンサルタント職に約17年間従事。外資系、日系大手、ベンチャー企業など様々な業態の企業より求人のオーダーを受け、営業系から技術系、そして管理部門系など1000名を超える幅広い職種の方とのキャリア面談に従事。また、在職中に、組織マネージメント、産休育休取得などの経験も有し、キャリアだけでなく、ライフという視点でのコーチングにも強みがある。
自身の経験や転職支援での経験も活かしつつ、それぞれのクライアントにあったキャリアの方向性や働き方を一緒に探索していくことを大切にしている。
アナザーヒストリー認定プロコーチ